オーストラリア東岸のクィーンズランド州ハーベイ湾で 2007 年に撮影されたオスのザトウクジラ (Megaptera novaeangliae) が、2019 年に南米ブラジルのサンパウロ沖で再発見されました。両地点の直線距離は **約 15,000 km**。同一個体が確認された距離としては世界最長で、2026 年 5 月に Royal Society Open Science で発表され、ScienceDaily が大きく報じています。
*▲ 写真: ザトウクジラ水中ショット (NOAA Photo Library / Public Domain, via Wikimedia Commons)*
## 何がすごいのか
ザトウクジラはもともと長距離を回遊することで有名で、夏に高緯度の冷たい海域で餌 (オキアミや小魚) を取り、冬に低緯度の温暖な海域で繁殖するのが基本パターンです。回遊距離は片道 4,000〜8,000 km 程度が典型と考えられてきました。今回の 15,000 km はその常識を大きく上回り、しかも別の繁殖群を横断する移動です。
## 個体識別の仕組み
研究者は **尾びれ (フルーク) の腹側模様**を指紋のように使って個体を識別します。模様は生涯ほぼ変わらないため、世界中の研究者が撮影した写真をデータベースで照合することで「同じ個体」を追跡できます。今回も市民科学者が投稿した写真がキーとなって判定されました。
## なぜ重要か
この一頭の旅は、ザトウクジラの社会構造・遺伝交流・繁殖地選択の柔軟性についての従来モデルを書き換える可能性があります。気候変動による餌資源の分布変化に対し、種としてどこまで対応できるかを示す貴重な事例でもあり、保全戦略を組み直す材料にもなります。
## クジラ検定での関連項目
- ザトウクジラの分類 (ナガスクジラ科 / ヒゲクジラ亜目)
- 季節回遊の基本パターン
- 尾びれによる個体識別法 (Photo-ID)
- 海洋哺乳類の保全と気候変動
## 出典 / Sources
- ScienceDaily (2026/05/19): https://www.sciencedaily.com/releases/2026/05/260519224303.htm
- 原論文: Royal Society Open Science (2026): https://royalsocietypublishing.org/journal/rsos
- IWC ザトウクジラ概要: https://iwc.int/about-whales/whale-species/humpback-whale
- NOAA Fisheries — Humpback Whale: https://www.fisheries.noaa.gov/species/humpback-whale
- 写真出典: NOAA Photo Library (Public Domain), via Wikimedia Commons — https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Humpback_Whale_underwater_shot.jpg